国立大学法人筑波大学
サナテックシード株式会社
2020/12/11
ゲノム編集技術により開発したGABA含有量を高めたトマトの届出提出について
概 要
筑波大学発ベンチャーのサナテックシード株式会社(代表取締役会長 竹下達夫)は、本年ノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス・ナイン)」(注1)を利用して、従来の品種改良技術に比べて効率的に、血圧上昇を抑える作用を持つ機能性成分「GABA(ギャバ)」(注2)の含有量が高いトマトを開発いたしました。
ゲノム編集作物の流通ルールとして、日本国内では昨年、届出制度が設けられました。その制度の下、この度サナテックシード株式会社は12月11日に厚生労働省へゲノム編集技術応用食品としての届出を行いました。また、同日、農林水産省へカルタヘナ法における「遺伝子組換え生物等」に該当しない生物として情報提供書の提出及びゲノム編集飼料としての届出をいたしました。今後、ゲノム編集作物として世界初となる高蓄積GABAトマト「シシリアンルージュ ハイギャバ」の販売準備を進めていきます。
サナテックシード株式会社について
筑波大学では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造プログラム」(2014〜2018年)を通じ、ゲノム編集技術を応用した品種改良を行ってきました。中でも、GABAを高蓄積させることに成功したトマトについて商業化するべく、2018年4月に筑波大学発ベンチャー・サナテックシード株式会社を設立いたしました。社名にあるサナ(Sana)はラテン語で健康という意味で、我々の商品で人々をより健康にしたいとの願いが込められています。
また、取締役最高技術責任者として、筑波大学生命環境系/つくば機能植物イノベーション研究センターの江面浩教授が就任しています。江面教授はゲノム編集分野における権威的先駆者で、この技術を用いてストレス軽減や血圧降下に効果があるとされるGABA含有量の高いトマトを開発しました。
シシリアンルージュ・ハイギャバと届出について
サナテックシード株式会社は、CRISPR/Cas9を用いて標的遺伝子であるGABA合成酵素の遺伝子に1 塩基対(bp)の塩基の挿入を引き起こし、従来の品種改良技術に比べて効率的に、GABA含有量を高めた系統#87-17を開発しました。この#87-17は編集前の個体と比較して、GABA含有量が約5〜6倍に達しており、販売を予定している「シシリアンルージュ・ハイギャバ」は、この#87-17を親としたF1品種です。
届出にあたりサナテックシード株式会社は、厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課新開発食品保健対策室と食品としての取り扱いの事前相談をしておりました。また、農林水産省消費・安全局農産安全管理課とは、生物多様性への影響に関する事前相談をしておりました。今般、これらの事前相談が終了したことから、今回の届出に至りました。食用としての流通を考えていますが、規格外果実の処理等で飼料利用がある可能性があるため、農林水産省畜水産安全管理課へ事前相談をしており、事前相談が終了したことから、飼料利用としても届出をしています。
販売計画と表示について
既存のトマト品種のように果実を市場に流通するためには、生産者向けの種子の販売や生産者の生育時間や場所の確保から始める必要があることから、すぐには行えません。
このため、まずは当該トマトを理解し希望される方のみが御自身で食べたい量だけ生産し、消費していただくよう、家庭菜園向けに苗を提供します。インターネットからの申し込みを通じて2021年春からの提供を開始予定です。
また今回販売する苗、また今後市場に流通する予定の果実には、ゲノム編集技術を利用したことが分かるように、下図のような「ゲノム編集技術で品種改良をしました」「届出済」の文言を含めたマークを付けて販売します。商品に関する情報を掲載しているサナテックシード株式会社のウェブサイトにアクセスできるQRコードも併せて表示する予定です。
問い合わせ先
サナテックシード株式会社
E-mail:info@sanatech-seed.com
注釈
注1 クリスパー・キャス・ナイン(CRISPR/Cas9)とは
1953年にDNAの二重らせん構造が発見されてから、人間、動物、植物など多くの生物の遺伝子構造が詳細に研究され、異なった遺伝子のそれぞれの役割が発見され続けています。世界中の科学者による研究の末、2012年、スウェーデンのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ氏とアメリカ、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ氏がゲノム編集技術「クリスパー・キャス・ナイン(以下CRISPR/Cas9)」を開発しました。この技術は、生物の持つDNAに外部の他の種のDNAを導入することなく、狙った遺伝子のみを的確に変異させることを可能とするものです。これにより従来の品種改良技術と比べて、効率の良い品種開発を行うことが可能です。この技術は次世代の農作物開発にとって大きな可能性を秘めており、食料の持続的な確保と同時に栄養、加工、貯蔵、健康(アレルギー誘発の減少など)面からの食料の品質改善に貢献するものと期待されています。エマニュエル・シャルパンティエ氏とジェニファー・ダウドナ氏は、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」の開発により2020年ノーベル化学賞を受賞しました。
サナテックシード株式会社は、Corteva Agriscience社およびBroad 研究所(Broad Institute of MIT and Harvard)から非独占的研究・商業ライセンスを受け、この技術を使用しています。
注2 ギャバ(GABA)とは
ギャバ(GABA)はアミノ酸の一つで、抑制性の神経伝達物質として知られています。血圧上昇の抑制やストレス緩和効果があることが報告されています。