2020年12月11日、国内初のゲノム編集技術を利用した食品として、サナテックシード株式会社のGABA高蓄積トマトの国への届出が受理されました。
今回は改めて、「シシリアンルージュハイギャバ」についてご紹介いたします。
ノーベル化学賞・CRISPR/Cas9を利用
2020年ノーベル化学賞の受賞者はCRISPR/Cas9の開発者である、シャルパンティエ博士とダウドナ博士でした。CRISPR/Cas9は、外から細胞に入ってくるウイルスの特定の塩基配列を認識し、切断するという細菌がもつ免疫システムを応用したもので、ウイルスの特定の配列だけでなく、開発者が指定する配列を切断できるように改良されました。植物に利用すれば品種改良に、ヒトに使えばガンの治療法として利用できる可能性があります。このように多分野に渡って人類に大きな恩恵を与える技術であるということで、ノーベル賞の受賞に至りました。
「シシリアンルージュハイギャバ」はこの技術を用いており、CRISPR/Cas9を用いて作られた作物としては世界で初めてでのことです。
GABA合成遺伝子の力を最大限高めました
GABAはうま味成分のグルタミン酸に、GADという酵素が働きかけることによって作られます。
GAD酵素はGABAを作る働きと同時に、自己を抑制する働きも持っていて、環境によって合成を制御しています。今回私たちはゲノム編集技術を用いて、自己を抑制する働きを担っている部位を失くすことによって、常にGADを活性化させGABAの量を増やすことに成功しました。
ゲノム編集技術を使用した食品・生物の取り扱いルール
ゲノム編集技術の前に、遺伝子組換え技術で作った作物についてのルールについて説明します。遺伝子組換え技術も品種改良技術の一つですが、交配できない他の生物の遺伝子が組み込まれるという点で、他の品種改良とは大きく違っています。綺麗な青いバラやカーネーションは、パンジーの青色遺伝子を入れることで美しい青色を出すことを可能にしました。遺伝子組換え技術で作った作物は、食べた時の安全性や他の生物や環境に影響を与えないかなどの審査が必要です。
ゲノム編集技術で作ったものは、これまでの品種改良で作った作物と比較して、最終的にもともと持っている遺伝子に変異を導入しただけという意味では同じです。そのため、従来の品種改良で生まれた作物と同様、審査は行わないというのが日本のルールです。ただゲノム編集技術は、審査が必要な遺伝子組換え技術と共通する過程を含んでいることや、まだできて歴史が浅い技術であるということから、事前相談や届出を通じ、詳しい情報を厚生労働省や農林水産省に提供するという決まりになっています。
シシリアンルージュハイギャバは「ふつう」のトマト
サナテックシードは、シシリアンルージュハイギャバを提供するに辺り、ルールに則り、厚生労働省や農林水産省との事前相談をしました。そこでゲノム編集技術によって、新たなアレルゲンや毒性物質が作られていないか、本当に他の生物の遺伝子が組み込まれていないか等の試験結果を全て提出し、安全性や環境への影響に問題がない、従来の品種改良で作られたトマトと同じであることが確認されたため、今回皆様へ提供することとなりました。
(参考図書)
ノーベル化学賞2020要約:https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2020/summary/
渡辺孝康, 中川一路, 丸山史人. (2013). 原核生物の新規な獲得免疫機構CRISPR/Casシステム. 化学と生物, 51(7), 441-444.
サントリーグローバルイノベーションセンターHP: https://www.suntory.co.jp/sic/research/s_bluerose/story/
厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課 新しいバイオテクノロジーで作られた食品について, 2020
農林水産省HP: https://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/genom_editting.htm